IT・システム開発は、パソコンとインターネット環境があれば、比較的少ない資金で始められる業種です。
しかし、案件を受注してから開発、納品、検収、入金までに数か月かかることがあります。売上が入金される前に、外注費や人件費、クラウドサービスの利用料などを支払わなければならないケースもあります。
そのため、IT・システム開発の創業融資では、高額な設備よりも、入金まで事業を継続するための運転資金をどのように確保するかが重要です。
この記事では、IT・システム開発で開業・会社設立を予定している方に向けて、必要となる資金、売上予測の作り方、創業計画書で説明したいポイントを解説します。
1.IT・システム開発でも創業融資が必要になる理由
IT・システム開発は、開業時に大規模な店舗や設備を必要としないことが一般的です。
一方で、次のような資金繰り上の問題が起こることがあります。
- 受注から入金までの期間が長い
- 開発中も毎月の固定費が発生する
- 売上の入金前に外注費を支払う必要がある
- 案件と案件の間に売上が途切れることがある
- 開業直後は受注が安定しない
- 自社サービスの開発中は売上が発生しない
- 予定より開発期間が延びることがある
例えば、300万円の開発案件を受注しても、代金が納品・検収後に支払われる契約であれば、開発期間中の外注費や固定費は先に支払わなければなりません。
「受注金額が大きいこと」と「手元に資金があること」は別の問題です。創業融資を申し込む際は、売上額だけでなく、支払いと入金の時期を整理する必要があります。
2.IT・システム開発で必要になる設備資金
IT・システム開発で考えられる設備資金には、次のようなものがあります。
- 開発用パソコン
- モニター
- サーバーやネットワーク機器
- セキュリティ関連機器
- デスクや椅子
- 複合機
- 事務所の内装設備
- 買取型の業務用ソフトウェア
- 自社ホームページの制作費
設備資金として申し込む場合は、購入予定の機器などについて見積書を準備します。
高性能なパソコンや複数台の機器を購入する場合は、使用する開発環境、担当する業務、必要な処理能力、台数の根拠を説明できるようにしておきましょう。
ITに詳しくない人にも、事業上必要な設備であることが伝わる説明が必要です。
3.特に重要になる運転資金
IT・システム開発では、設備資金よりも運転資金が重要になることがあります。
主な運転資金として、次のような費用が考えられます。
- 従業員の給与や役員報酬
- 外注エンジニアへの支払い
- デザインやテストなどの外注費
- 事務所家賃
- 通信費
- クラウドサービス利用料
- ソフトウェアの月額利用料
- 広告宣伝費
- 営業活動に必要な交通費
創業計画書では、「運転資金一式」とまとめるのではなく、項目ごとに金額を計算します。
外注費の支払時期に注意する
システム開発では、プログラミング、デザイン、テスト、サーバー構築などの一部を外注することがあります。
顧客からの入金が納品後である一方、外注先には毎月支払う契約であれば、入金よりも支払いが先行します。
外注費を運転資金に含めるときは、次の事項を整理しましょう。
- 外注する業務
- 外注金額
- 支払時期
- 顧客からの入金時期
- 外注が必要となる理由
外注予定が決まっている場合は、見積書や業務委託契約書案などを準備すると、必要資金の根拠を示しやすくなります。
4.事業内容と対象顧客を明確にする
「IT・システム開発」という言葉が示す範囲は広いため、創業計画書には具体的な業務内容を記載します。
例えば、次のような事業があります。
- 業務システムの受託開発
- Webシステムやアプリの開発
- ECサイトの構築
- クラウドシステムの導入支援
- システムの保守・運用
- 組み込みシステムの開発
- ITコンサルティング
- SES事業
- 自社開発サービスの提供
複数の事業を行う場合でも、創業当初の中心となる事業を明確にしましょう。
また、「中小企業向け」だけでなく、「建設会社向けの施工管理システム」「介護事業者向けの顧客管理システム」など、対象顧客を具体的にすると事業内容が伝わりやすくなります。
特定業界での勤務経験や開発経験がある場合は、その経験と対象顧客を結び付けて説明しましょう。
5.創業者の経験と実績をどのように示すか
IT・システム開発では、創業者本人の技術力と経験が事業の基盤になります。
創業計画書には、勤務先や勤務年数だけでなく、次の内容を記載します。
- 担当していたシステムの種類
- 担当した開発工程
- 使用してきた技術
- 要件定義や顧客への提案経験
- プロジェクトの規模
- プロジェクト内での役割
- チームや外注先を管理した経験
- 保守・運用の経験
- 関連する資格
過去の顧客名やプロジェクト内容を記載するときは、秘密保持義務や以前の勤務先との契約に注意が必要です。
顧客名を出せない場合は、「医療機関向けの顧客管理システム」「中小企業向けの販売管理システム」など、公開できる範囲で説明します。
6.受注見込みを具体的に説明する
金融機関は、開発能力だけでなく、実際に受注して売上を得られる見込みがあるかも確認します。
主な受注方法には、次のようなものがあります。
- 元勤務先や以前の取引先から受注する
- 他のシステム会社から業務を受託する
- 知人や提携先から紹介を受ける
- 自社ホームページから問い合わせを獲得する
- マッチングサービスを利用する
- 交流会などで顧客を開拓する
すでに受注が決まっている場合は、契約書、発注書、注文書などを準備します。
正式契約前でも、見積依頼、商談記録、メール、提案書などがあれば、受注見込みを説明する資料として利用できる場合があります。
元勤務先から受注する場合
元勤務先から継続的に仕事を受注できれば、創業直後の売上を説明しやすくなります。
一方、売上の大部分を1社に依存する計画にはリスクがあります。
初年度は元勤務先からの受注を中心としながら、自社ホームページ、紹介、業務提携などを通じて取引先を増やす計画も示しましょう。
7.売上予測は契約形態ごとに作成する
IT・システム開発の売上予測は、契約形態によって計算方法が異なります。
受託開発
案件単価と受注件数から計算します。
- システム開発:月1件×80万円=80万円
- 小規模な改修:月2件×15万円=30万円
- 月間売上合計:110万円
開発期間が長い場合は、同時に何件対応できるのか、創業者の稼働時間も考える必要があります。
準委任契約・SES
月額単価と稼働人数から計算します。
- 創業者本人:月額70万円
- 外注エンジニア1人:月額65万円
- 月間売上合計:135万円
外注エンジニアを使用する場合は、売上だけでなく外注費も併せて計算します。
保守・運用契約
契約社数と月額料金から計算します。
- 月額保守料3万円×10社=月30万円
継続的な売上になりますが、創業時点で何社と契約できるのか、その根拠が必要です。
自社開発サービス
自社サービスの場合は、利用者数、月額料金、有料利用者の割合、販売開始時期などから予測します。
開発が完了しても、すぐに利用者が増えるとは限りません。開発期間中の費用と、販売開始後に売上が安定するまでの資金を慎重に見積もりましょう。
8.入金時期と契約内容を確認する
システム開発では、契約締結後、要件定義、設計、開発、テスト、納品、検収、請求を経て入金されることがあります。
開発開始から入金まで数か月かかる場合、その間の外注費や固定費を支払える資金が必要です。
契約書や見積書では、特に次の事項を確認しましょう。
- 業務の範囲
- 報酬額
- 着手金や中間金の有無
- 納品と検収の条件
- 請求日と支払期限
- 仕様変更の手続き
- 追加作業の料金
- 再委託の可否
- 契約解除の条件
業務範囲や検収条件が曖昧な場合、追加作業が発生したり、検収が終わらず入金が遅れたりする可能性があります。
創業時は、売上を作るだけでなく、契約した金額を予定どおり回収できる仕組みを整えることも重要です。
9.創業計画書と一緒に準備したい資料
創業計画書の内容を補足するため、次のような資料を準備します。
- パソコンなどの見積書
- 外注先から取得した見積書
- 顧客との契約書や発注書
- 商談記録や顧客とのメール
- 提案書やサービス料金表
- 過去の開発実績一覧
- 保有資格を確認できる資料
- 月別売上計画
- 月別資金繰り表
- 開発スケジュール
- 営業計画
すべての資料が必ず必要になるわけではありません。
重要なのは、創業計画書に記載した経験、売上、経費、受注見込みを裏付けられる資料をそろえることです。
10.IT・システム開発の創業融資で注意したいこと
売上予測に受注の根拠がない
創業直後から高額案件を毎月受注する計画でも、顧客や営業方法が決まっていなければ説得力がありません。
見込み客、過去の取引関係、商談状況と売上予測を結び付けましょう。
自分の稼働時間を超えている
創業者1人で開発、営業、打合せ、請求、保守を行う場合、受注できる案件数には限界があります。
売上計画では、開発だけでなく営業や管理業務に使う時間も考慮します。
外注費が売上と連動していない
案件数が増えれば、外注費も増えることがあります。
売上だけが増え、外注費が変わらない不自然な計画になっていないか確認しましょう。
入金までの資金が不足している
利益が出る計画でも、入金前に手元資金がなくなれば事業を続けられません。
月別の収支だけでなく、支払いと入金の時期を確認することが重要です。
まとめ
IT・システム開発は、比較的少ない設備で始められる一方、開発から検収・入金までの期間が長く、外注費などの支払いが先行しやすい業種です。
創業融資を検討するときは、特に次の点を整理しましょう。
- 提供するサービスと対象顧客
- 創業者の開発経験
- 具体的な受注見込み
- 契約形態と案件単価
- 開発期間
- 外注費の金額と支払時期
- 顧客からの入金時期
- 事業が安定するまでの運転資金
創業計画書では、技術的な内容だけでなく、誰にどのようなサービスを提供し、どのように売上を得るのかを、ITに詳しくない人にも伝わるように説明することが大切です。
創業融資制度の概要や申込みの流れについては、別記事「創業融資とは?申込みから融資実行までの流れ」をご覧ください。
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