「そろそろ法人化しよう」「会社を作って本格的に事業を始めよう」と思ったとき、「株式会社にするか、合同会社にするか」と悩まれる方も多いと思います。
どちらを選んでも、
- 法人格を持てる
- 代表者個人は「有限責任」になる
- 個人事業よりも信用面でプラスになりやすい
といった共通のメリットがあります。
一方で、
- 設立コスト
- 設立後のランニングコスト
- 経営の仕組み
- 信用力
- 資金調達や将来の拡大余地
といった点で、両者の違いがあります。
まずは全体像をつかむために、主な違いを表で整理してみましょう。
株式会社と合同会社の主な違い(比較表)
| 比較項目 | 株式会社 | 合同会社 |
1 | 設立コスト | 定款認証が必要。登録免許税も高め。合同会社より高コスト | 定款認証不要。登録免許税も低め。低コストで設立しやすい |
2 | ランニングコスト | 役員重任登記・決算公告など | 役員の任期なし、決算公告義務なし |
3 | 経営の仕組み | 「株主」と「取締役」が分かれる。所有と経営を分離する形 | 「社員(出資者)」が所有者であり経営者。フラットな少人数経営向き |
4 | 議決権・意見対立のリスク | 原則「1株=1議決権」。多数株主がいれば意思決定はスムーズ。50:50は要注意 | 原則「1人1議決権」2人が対立すると問題が起こりやすい |
5 | 利益配分のルール | 原則、出資比率(持株比率)に応じて配当 | 出資比率と切り離して、柔軟な利益配分が可能 |
6 | 信用力・対外的イメージ | BtoB取引・金融機関・採用などで一般的に安心感があり有利 | 業種によっては問題にならないが、相手によっては説明が必要なことも |
7 | 資金調達・上場などの拡大余地 | 株式発行・投資家からの出資・IPOなど、成長の枠組みが整っている | 出資は可能だがスキームが限定的。上場はできず、大型調達には不向き |
ここからは、起業家がまず押さえておきたい「7つの違い」を順番に見ていきます。
違い①:設立コスト――「最初の一歩」の負担
設立時のコストは、株式会社の方が高く、合同会社の方が安いのが一般的です。
株式会社
- 公証役場での「定款認証」が必要(3~5万円:資本金の額による)
- 登録免許税も合同会社より高くなる(15万円~:資本金の額による)
- 結果として、合同会社に比べて
数万円〜十数万円ほど高くなりやすいイメージです。
合同会社
- 定款認証が不要(資本金によらず0円)
- 登録免許税も低め(6万円~:資本金の額による)
- 「まずはコストを抑えて法人化したい」というニーズに合いやすい
「一円でも安く設立したい」だけで見れば、合同会社が有利です。
ただ、起業全体のコストは“設立時だけ”ではないので、
次に設立後のランニングコストも確認しておきましょう。
違い②:設立後のランニングコストの違い
設立時の費用とあわせて「ランニングコストがどのくらいかかるのか」も会社形態選びでは重要です。
4-1.株式会社ならではのランニングコスト
株式会社の場合、
- 役員(取締役、監査役など)には任期(2~10年)があるので、任期満了後には重任・変更登記が必要になる。
- 決算公告(官報や自社サイトでの公告が必要)
「株式会社としての形を維持していく」ための最低限のコストはどうしてもかかります。
4-2.合同会社のランニングコスト
一方、合同会社は、
- 役員(取締役、監査役など)には任期がないので重任・変更登記が不要・
- 決算公告の義務も、株式会社のようには課されていない
といった特徴があり、ランニングコストは株式会社より軽いと言えます。
違い③:経営の仕組み(意思決定)――誰が、どう決める会社か
株式会社と合同会社では、会社の中での“人の関係”が異なります。
株式会社
- 「株主」=会社の所有者
- 「取締役」「代表取締役」=会社を運営する人
- 株主総会という形で、所有と経営を分ける仕組みが基本。株主総会で取締役等を選任して、その取締役が株主から委任を受けて会社を運営します。
※日本の株式会社の多くは1人で出資して株主になり、その人が社長(代表取締役)に就任している(社長=株主)ので気づきにくいかもしれません。
合同会社
- 「社員(出資者)」が、所有者であり経営者
- 原則として、社員全員で重要事項を決定
- 少人数・フラットな経営スタイルに向いた形態
創業メンバーが数人いて、「全員が出資し、全員が現場で動き、全員で意思決定したい」というイメージであれば、合同会社は非常に相性の良い形態です。
※出資した人が社員になりますが、ここでいう社員は従業員のことではありません。会社法では合同会社の出資者のことを社員と定義しています。この社員は株式会社における取締役と同じように会社を運営する人のことを言います。
違い④:議決権と意見の相違がある場合
会社を経営するにあたり会議を開いて議事を決定しますがこの際の議決権に違いがあります。
株式会社の場合
- 株主の議決権は基本 「1株=1議決権」
- 過半数を持つ株主が明確な限り、意思決定は停滞しにくい
- ただし、株式が50:50だと議決が割れ、経営に停滞が起きる可能性あり
合同会社の場合
- 社員(出資者)の議決権は原則 「1人1議決権」(定款で変更可)
- 2人で設立し意見が分かれると、意思決定が止まることが発生することがある。
- 事前に「議決権割合」「決議要件」「紛争時の取扱い」を定款で工夫する必要がある
➡ 合同会社は柔軟だが、共同創業者が複数いる場合にこそ“設計の難しさ”がある
➡ 一方、株式会社は構造が定型化されており、意思決定トラブルが比較的起きにくい
違い⑤:利益配分のルール――儲かったときの“分け方”
「利益をどう分けるか」のルールも大きな違いです。
株式会社
- 原則として、出資比率(持株比率)に応じて配当
- 100万円出資した人と10万円出資した人がいれば、前者の方が多くの配当を受け取るのが基本
合同会社
- 出資比率と切り離して、柔軟に利益配分を決めることが可能
- 「資金は少ないが、現場で大きく貢献している人に多く配分」といった設計もできる
共同創業者がいる場合には、
- 議決権
- 利益配分
をセットで設計することがポイントです。
「議決権は過半数を誰か一人に寄せるが、利益は貢献度に応じて柔軟に配分する」といった形も、合同会社であれば設計しやすくなります。
違い⑥:信用力・対外的イメージ――取引先からどう見えるか
日本では、いまだに 「株式会社=ちゃんとした会社」
というイメージが強く、取引先や金融機関、採用候補者に対しても、株式会社の方が安心感を持たれやすい傾向があります。
株式会社
- BtoB取引、大企業との取引、金融機関からの見え方などで有利になりやすい
- 採用の場面でも、応募者に安心感を与えやすい
合同会社
- IT・クリエイティブ・専門職などの業種では、会社形態よりも「中身」で評価されることが多く、あまり問題にならない場合もある
- 一方で、業種や取引先によっては「株式会社の方が安心」と見られることもある
どの業界で、どのような相手と取引していくのか。
ターゲット次第で、会社形態の向き不向きが変わってきます。
違い⑦:資金調達・将来の拡大余地――どこまで成長させたいか
将来、
- 投資家から出資を受けたい
- 上場(IPO)を視野に入れている
といった成長戦略を描いている場合、会社形態の選択は非常に重要です。
株式会社
- 株式発行による出資を受ける仕組みが整っている
- ベンチャーキャピタルなども、基本的には株式会社への投資を前提としている
- 上場を目指すのであれば、株式会社一択
合同会社
- 出資を受けること自体は可能ですが、投資家側から見るとスキームが限定的で扱いにくい面もある
- 上場はできないため、「IPOを目指す成長ストーリー」とは相性がよくない
「小さく安定して長く続けるビジネス」なのか、
「投資を受けながら一気に成長させていくビジネス」なのか。
ここが、株式会社か合同会社かを決める上での大きな分かれ目になります。
ただ、後々会社の成長に応じて合同会社から株式会社へ変更することは可能です。
どちらが向いている?タイプ別の目安
あくまで一般的な目安ですが、次のように考えると整理しやすくなります。
株式会社が向いているケース
- BtoBビジネスや大企業との取引が中心になりそう
- 将来、投資家からの出資や上場を目指している
- 採用にも力を入れ、優秀な人材を集めていきたい
- 設立・ランニングのコストが多少高くても、対外的な信用力を優先したい
合同会社が向いているケース
- 少人数で、小さく・スピーディーに事業を始めたい
- 設立時のコストと形式的なランニングコストをできるだけ抑えたい
- 共同創業者との柔軟な利益配分を重視したい
- IT・クリエイティブ・専門職など、会社形態よりも本人のスキルが評価されやすい業種
当事務所にご依頼いただくメリット
ここまで見てきたとおり、株式会社と合同会社にはそれぞれメリット・デメリットがあります。
しかし実際には、「自分の事業に当てはめると、どちらが本当に合っているのか分からない」
というご相談を多くいただきます。
当事務所では、会社形態の選択から設立手続き、その後の資金調達までを見据えて、次のようなサポートを行っています。
(1)会社形態と資金計画をセットで検討
- 株式会社と合同会社の違いを、設立コスト・ランニングコスト・資金調達のしやすさといった実務目線で整理
- 事業計画と照らし合わせながら、「無理なく続けられる」資金計画をご一緒に作成します。
(2)創業融資や制度融資を意識したアドバイス
- 日本政策金融公庫の創業融資や、自治体の制度融資などと絡めて、会社形態の選択を考えるお手伝いをします。
- 「この規模・この業種なら、まずはこのくらいの融資を目安に」「そのために、会社形態はこうしておいた方がスムーズ」といった具体的な方向性もお示しします。
(3)会社設立から融資申込までワンストップでサポート
- 定款の内容検討
- 会社設立に必要な書類の準備
- 創業計画書や事業計画書の作成支援
など、起業の最初の一歩から、実際に資金を確保して走り出すところまでをトータルにサポートいたします。
(4)「とりあえず合同会社」「なんとなく株式会社」にならないように
インターネット上では、
- 「とりあえず合同会社が安くておすすめ」
- 「やっぱり株式会社一択」
といった極端な情報も多く見かけます。
当事務所では、
お客様の事業内容・将来のイメージ・ご希望の働き方などを丁寧に伺ったうえで、
「このような考えなら株式会社の方が合いそうです」
「現時点では合同会社でスタートし、○年後に株式会社への変更を視野に入れましょう」
といった形で、中立的な立場から一緒に考えることを大切にしています。
まとめ――「今」と「将来」の両方から会社形態を選ぶ
株式会社と合同会社には、主に次のようなポイントで違いがあります。
- 設立コスト
- 設立後のランニングコスト
- 設立手続き・スピード
- 経営の仕組み(意思決定)
- 利益配分のルール
- 信用力・対外的イメージ
- 資金調達・将来の拡大余地
- 将来の変更・出口戦略
大切なのは、
- 「今の自分の状況」(資金・事業規模・取引先)と、
- 「数年後のありたい姿」(拡大したいのか、安定重視なのか)
の両方をイメージしたうえで、自分の事業に合った会社形態を選ぶことです。
もし、
- 「株式会社と合同会社、どちらが自分に合うのか相談したい」
- 「会社設立とあわせて、創業融資のこともまとめて聞きたい」
というお気持ちがあれば、
「会社を作ろうか迷っている段階」でもかまいませんので、どうぞお気軽にご相談ください。
ご自身の事業に合った形を、一緒に考えていきましょう。
